「遠い太鼓」

旅行のお供に成田で買った一冊。著者村上春樹氏が1986年〜89年の3年間、ギリシア・イタリア等で過ごしながら執筆活動を行っていた時の記録。今でいうブログっぽい著作。今と変わらぬ飄々とした文体でユーモアに富み、ストレスなく読める佳作でした。旅行のお供にぴったり。

さて今でこそスーパーメジャーな著者だが、大ブレークしたのは’87年の「ノルウェイの森」。そう、その大出世作もこの3年間に書かれたものであった。ちなみに「ダンス・ダンス・ダンス(’88年)」も。(この本で初めて知った)
僕の人生に重ねると大学に入学した1989年、一人暮らしを始めた頃に「ノルウェイの森」がベストセラーで、周りのみんなが読んでいたのにつられて読んだことをよく覚えている。そこからデビュー作「風の歌を聴け」に遡り、(当時の)ほとんどの著作を読みふけった。モラトリアムな精神状態にビタッとはまった感じで、今でも氏の著作を読むと当時のそのモラトリアムな精神状態や空気・雰囲気・聴いてた音楽・いきがって飲んでたウィスキーなんかが思い起こされてノスタルジーを覚える。僕の卒論のテーマはレイモンド・カーバーだが(内容はほとんど覚えていない)、それも村上春樹の影響が少なからずあった。たくさん翻訳しているからね。
さてその3年間の渡欧は、氏が40歳という節目(”分水嶺”と表現している)を控え、一つの仕事を成し遂げるために執筆に集中するという目的であった。嘘か本当か分からないが「いくぶん経済的な不安はあった」とある。確かに「ノルウェイの森」以前は余裕の印税生活と言うわけではなかったのかもしれない。そういうリスクを冒しながら、人生の節目(分水嶺)に一つの仕事をきっちり成し遂げるという姿勢には大いに共感する。今年39歳の僕も深く考えさせられるのです。

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)